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監督:飯塚 健

舞台裏で戦ったテストジャンパーの存在を知った瞬間、映画にすべきだと直感した

「俺じゃないよ。みんなだよ」

長野五輪、金メダルを獲得した直後の、原田雅彦さんのお言葉です。

当時私は、その【みんな】の指す所が、共に代表チームとして戦った岡部孝信さん、齋藤浩哉さん、船木和喜さんのことだとばかり思っていました。それが実際は違った。3選手以外のことも、含まれていたのです。

それが、25人の【テストジャンパー】と呼ばれる人たちでした。雪が吹き荒れ、1メートル先すら見えない中、それでもスタートを切る。体一つで時速90㎞に加速する。命懸けで踏み切る。中断した競技を再開させるために。

そしてその顔ぶれの中には長野の前、リレハンメル五輪では代表選手だった西方仁也さんがいた。ユース時代から多くの時間を共にしてきた西方さんと原田さん。明暗が分かれた二人が、それでも金メダルを目指す。原田さんが逆転の大ジャンプを決めた時、着ていたアンダーシャツは西方さんのシャツでした。

そんな舞台裏で戦ったテストジャンパーの存在を知った瞬間、映画にすべきだと直感しました。2011年のことでしたから、いっそう強く思えたのかも知れません。この絆の物語なら、勇気を受け取って貰えるんじゃないかと。

その後、西方さんや原田さんから直接お話を聞かせて頂きました。その中で、「スキージャンプは10歳までに始めないと、挑戦できない競技」というのが印象的でした。それまでに始めないと、恐怖心に打ち勝つことができないからだと。映画化にあたり、当然ながら俳優が実際に飛ぶことは不可能です。(スタートを切るまで本当に演じて頂きましたが)

例えばボクシングやシンクロを題材にした映画は、俳優がトレーニングを積み、実際に演じているからこそ、その汗に感動できる。でもスキージャンプはそうはいかない。だとしたら、ジャンプの渦中ではなく、スタートを切る前と、着地後のドラマに集約すべきだと思えました。

あとはともかく、雪不足に悩まされました。ですが、その想定外の逆境に打ち勝つために、撮影チームが一丸となり、知恵を絞り、それこそ舞台裏で奮闘してくれました。

2011年に映画化を思い立ったこの作品が、公開延期を経て、奇しくもコロナ禍の中で公開を迎えようとしています。あの震災時に映画化すべきだと強く思った本作の持つメッセージが、より多くの人に届くことを願っております。

映画監督。脚本家。1979年生まれ。2003年、石垣島を舞台にした群像劇『Summer Nude』でデビュー。若干22才で監督を務めたことが大きな反響を呼んだ。以後『放郷物語』(06)、『彩恋 SAI-REN』(07) など青春の切なさを生き生きと描く映像作家として頭角を現す。また「FUNNY BUNNY」を始めとする演劇作品、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやOKAMOTO'S、降谷建志らのMV、小説、絵本の出版と、活動の幅を広げる。代表作に『荒川アンダー ザ ブリッジ』シリーズ (11ドラマ、12映画)、『風俗行ったら人生変わったwww』(13)、『大人ドロップ』(14)、「REPLAY&DESTROY」(15ドラマ)、『笑う招き猫』シリーズ (17ドラマ、映画)、『榎田貿易堂』(18)、『虹色デイズ』(18)、『ステップ』(20) など多数。

企画プロデュース:平野 隆

『Life 天国で君に逢えたら』(07)『余命1ヶ月の花嫁』(09)
『抱きしめたい−真実の物語−』(14)『チア☆ダン』(17)
『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17)

数々の実話の映画化を手掛けてきた
集大成となる作品

私はこれまで実話の映画化を5本手掛けてきましたが、きっかけは全て自分がその実話に心震わされたからでした。

死に直面された方と、ご家族や恋人との熱くて強い“想い”。ハンディキャップを背負ってもひたむきに前を向く“生きる力”。前人未踏の夢に挑戦していく少女達の“情熱”。絶望的な状況の中でも命を信じ続ける“愛の力”。

どの映画も完成した瞬間、安堵と共に「この仕事をしていて良かった」という充足感を得ました。安堵と言ったのは、製作中はモデルとなった方々に対して、常に責任とプレッシャーを感じていたからです。そういったこともあり、実話の映画化には極めて慎重な姿勢でいたのですが、『ヒノマルソウル』はこれまでとは違った形で私の心に響いてきました。

長野オリンピックスキージャンプ団体での金メダル獲得は、オリンピック史上日本人に最も感動を与えた出来事ですが、正直私はそこにあまり興味はありませんでした。

私の心を震わせたのは、西方仁也さんという人物の“挫折”と“再生”、そして25人のテストジャンパー達の“献身”でした。

今世の中の大多数の人達が自分のことを裏方だと感じていると思います。スポットライトが当たらなくても、それぞれの場所で精一杯“何か”もしくは“誰か”の為に生きていく。私はそんな裏方の象徴として西方さんを捉えていました。

この物語は私にそうであったように、きっと多くの方々にも希望と勇気を与えてくれる。そう信じて映画化に向かい動きはじめました。

この物語で描かれている西方さんは決してスーパースターではありません。田中圭さんに西方さんを演じて欲しいと思ったのは、田中さんが長い下積みを経て現在に至っていると感じていたからです。田中さんならばきっと西方さんの“痛み”を肌で感じ取り、まっすぐに表現してくれるのではないかと思いました。

脚本制作中に、珍しいことなのですが一つのフレーズが頭の中で浮かんできました。日々歯を食いしばり耐えがたきを耐えている日本中の仲間達にこの映画を届けたい、裏方にも栄光の瞬間があることを伝えることができたら…そんな想いから、サブタイトルに「舞台裏の英雄たち」とつけました。

大分県生まれ。一橋大学卒業後、TBSに入社。実話の映画化だけでなく、『黄泉がえり』(03)、『どろろ』(07)、『忍びの国』(17)、『七つの会議』(19)、『スマホを落としただけなのに』(18)、『糸』(20) などヒット作が多数。公開待機作に『かぐや様は告らせたい2~天才たちの恋愛頭脳戦~(仮)』(21 8月公開予定)、『老後の資金がありません!』(21 秋公開予定) など。

  • 脚本:杉原憲明

    『ニセコイ』(18)
    『青くて痛くて脆い』(20)
    『総理の夫』(21 公開予定)

    音楽:海田庄吾

    『百円の恋』(14)
    『北の桜守』(18)
    第42回日本アカデミー賞 優秀音楽賞受賞 『犬鳴村』(20)
    『アンダードック』(20)

  • 脚本:鈴木謙一

    『ゴールデンスランバー』(10)
    『残穢-住んではいけない部屋-』(15)
    『殿、利息でござる!』(16)

    映画『ヒノマルソウル
    ~舞台裏の英雄たち~』
    オリジナル・サウンドトラック
    音楽:海田庄吾

    発売日:2021年5月5日(水)
    発売元:Anchor Records

  • 小説「ヒノマルソウル
    ~舞台裏の英雄たち~」

    著:涌井 学
    脚本:杉原憲明/鈴木謙一
    定価:本体580円+税
    小学館文庫

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